こんな話題を見たのだが、正直「うん?」と思った私である。
ある時期、なろうで「買ってくれなきゃ打ち切りになるんです!」っていう脅し文句で新刊購入を呼び掛ける手口が発生したのは知っている。
それがどのくらいの効果を呼ぶものなのかは定かではない。
けれどこの宣伝文句(?)を「イイじゃん!」と思ったなろうユーザーが多数いたらしく。
書籍化作家がこぞって脅すように購入を持ち掛けるようになった。
けれど、この流行りに編集までもが乗っている的な記事にびっくりした。
まあ昨今の小説家業は一昔前と違って、作家自らで宣伝しないといけないから。
出版社に雑事を任せて悠々と待つ、という態度ではいけないのはわかるんだけどね。
でも、これを言われる側の気持ちになってみることはできないだろうか?
「よっしゃ買ったるで!」と前向きになる人が、果たしてどのくらいいるだろう。
それにこれって、まんまAKB商法じゃん?
作者が売れるためにやることは、面白い小説を書くことであり、自分のファンに課金を促すことではない。
もっとはっきり言えば、下品なやり方だと思うのは私だけだろうか?
まあそんなことはともかく。
私が気になったのは、「電子書籍は紙の書籍より、売り上げ把握が難しい」という点である。
え、アルファポリスさんは書籍化作家に対して、電子書籍の分もちゃんとデータを出してくれてますけど?
アルファポリスで書籍化した作家さんなら誰もが知っていることなのだが、実は自分のアカウントページで、紙と電子書籍の売れ行きを確認できるのである。
そう、ネット裏でひそかにやり取りされているデータではなく、アルファポリスが把握する売り上げデータを公表しているのだ。
大事なことだからもう一度言うが、電子だけじゃなくて、紙の書籍の分もだよ?
すごくない、これ?
他の出版社だと、おそらく刷った冊数しか作者に伝えないのだと思う。
実際某K社がそうだったし。
このシステムは、作者によっては評価が分かれるかもしれない。
だって、返本数がモロわかりなんだから。
そりゃあ、売れない本の時はどんより落ち込みますって。
でも私は、アルファポリスのシビアな売り上げ提示には感謝している。
数冊出させてくれたおかげで、売れる本の傾向というものがわかる。
それはすなわち、成長できるということだ。
人によっては「みんな売れる本ばかり書いて、似たような本が並ぶだけじゃん!」って言うのかもしれない。
けれど前にも言ったように、自分の作風を追求するのは、大御所小説家にになってからでいい。
末端小説家はまず売れることが大事です。
話が逸れたが、電子の売り上げ把握が難しいという話題。
私的にはアルファポリスからのデータをチェックしていて、そう感じたことはない。
月初めに更新されるんだけど、紙の書籍に対して、電子書籍の反映が遅いとも思わない。
それに紙の書籍のPOSシステムだって、正確なわけではないわけで。
売れる都度データを出してくれるところもあれば、数か月後にドーンと出すところもある。
実際データでも、ちょっと忘れかけたころにまとめて数字が入るし。
そのあたりは電子書籍だって同じことで、それでも数字の伸びは一つの指針になる。
この時期にこのくらい売れていればそこそこ行けるな、という計算が成り立つんですよ。
アルファポリスは新興の出版社で、決して大手というわけではない。
でもそこができていることを、大手ができないわけがないと思うんですよ。
しかし、私がアルファポリスの作家だから贔屓してるんじゃない? と考える人もいるだろう。
何故なら、アルファポリスは書籍化を目指す作家にとって、優良な出版元とは言えない。
それは、印税が刷った冊数の満額払われないから。
売れた本の分だけ払う、それがアルファポリスの昔からのスタンスである。
しかも発売すぐではなく、売れた数が確定してから払われるので、印税を受け取るのがかなり遅れるのである。
以前は返本分のマイナス売り上げについて色々議論があったが、今は改善されているので、アルファポリスもこの辺りの最善を探っている最中なのかもしれない。
ともあれ、これだけ聞くと、「ショボいなアルファポリス!」と思うかもしれない。
確かに作家サイドとしては、満額払ってくれる出版社の方がいい。
たくさん刷ってもらってドーンと印税を貰えたら、こんな楽な話はない。
しかし、出版社には返本というリスクがあるのですよ。
そして、出版社が紙の書籍にこだわる理由でもある。
つい最近、こんな記事があった。
アマゾンさんの手法はともかく、記事の内容としては要するに、出版業界は自転車操業的営業手法で成り立っているというわけだ。
たくさん刷るのは、刷っただけ現金収入が入るから。
そう、紙の書籍の方が早くまとまった収入になるのだ。
大量に刷って、大量に返本が出たとする。
でも返本分の支払いは、次に刷る本の収入で払えばいい。
誰か作家が大ヒットを出してくれれば、借金はそれでチャラになる。
……これだけ聞くと、どこのばくち打ちだよって思うね。
商売を少しでも知っている人からしたらこれ、まんま赤字体質の商店のやり口だから。
なんていうか、出版社って内部に経済の専門家が必要なんじゃない? ってカンジなんだけど。
確かに編集は本作りのプロだろうけど、会社経営のプロではない。
編集で成功した人を会社の上役にするのって、ひょっとしてダメなんじゃなかろうか。
そしてこの点から考えると、アルファポリスのやり方はある意味、出版社としてたぶん身の丈に合った手法なんだろう。
作家の実力分の利益しか払わない、それは出版社としては異質でも、企業としては正しい姿に見える。
作家が自分の売り上げのリスクをある程度背負っているから、たくさん本を作れるというわけだ。
ではアルファポリスがどうして、出版社としては異質なこの手法をとれるのか?
アルファポリスと他大手出版社との違い、それは以前コバルトの記事にも書いた、「バブル爆売れの呪縛」を受けていないことだろうと、私は思う。
「いつかきっと読者が戻ってきて、起死回生の大ヒットが出る」
そんな幻想をそもそも抱いていないのだろう。
だから今の販売数でやっていける方法を模索できる。
けれど一方で、既存の出版社がこの手法に踏み切れない訳もわかろうというもの。
今まで一万二万、どうかすると十万単位で初版を出していた作者が、ある時突然「本当のあなたの実力はこれだけです、ほとんどが返本されました」と言われたら。
すっごいショックだよね!
たくさん刷った分の印税をドーンと貰って、「自分、売れてるんだぁ」と思えるほうが、あるいは作家にとって幸せかもしれない。
けれど、自分の借金を他の作家が払っているんだとすると、どうだろうか。
どのくらい売れているかを作家に教えないのは、果たして優しさだろうか?
売れなかったことを黙秘され、黙って切られることのほうがつらくないか?
これは出版社だけではなく、作家側にも変革を求められている問題なのだろう。
たくさん刷ればたくさん売れるわけではないことは、言っちゃあなんだかアルファポリス作家はよく知っているのである。
読者がどんな話を自分に求めているのかとかを学んで、自分の借金(=返本数)を減らす努力をするのが大事。
提示された見た目良い数字だけで、安心していてはいけないんです。
そしてアルファポリスの手法が、出版業界で最もいいモデルだとは思わない。
あくまで、よりマシな経営手法だというだけだ。
もしかして今後画期的なツールが開発されて、ウルトラC的解決法を編み出す人が出るかもしれない。
頑張ろう、出版業界!
そして目指すは、作品が面白くてコスパ(=返本率)のいい小説家!